内藤英治先生 退任記念展に寄せて
京都市立芸術大学学長 建畠 哲
表現としての大いなる斬新さが工芸の伝統を踏まえた確かな技量に支えられていること。内藤英治先生の藍型染の世界の魅力を一言にすれば、そういうことになるでしょう。先生の作品はいずれも山岳、雪原、水面、葉叢、木立ちなどの自然の光景をモチーフにしており、染としては極めて大胆に絵画的なイメージを取り入れた画面ということができます。しかしそれを可能にしているのは、傑出した型染の技術に他なりません。
画面に直接絵筆で、描くのとは異なって、イメージを一旦、型紙に移すという間接性と同じ型をずらしながら繰り返し用いることができるという反復性は、自然のモチーフをリズムとして捉えるという、独特の効果を先生の作品にもたらしています。興味深いのは、そうしたプロセスを通じて、水面や雪原、あるいは砂原などに見られる紋様が、どれも平行四辺形の連なりであるという不思議といえば不思議な事実が浮かび上がってきていることです。その反復のパターンにこそ、先生ならではの絵画性と装飾性のふくよかな総合が見て取れるように私には思われるのです。
染に見られる優美な紺色のグラデュエーションもまた、私たちの目を魅惑して止みません。一度全体を浅く染め、型紙をセットして糊を置いて再度染め、さらに型紙を重ねて染め直すという作業の繰り返しは、黒に近い濃紺から透明感のある空色まで、実にニュアンスに富んだ色調の豊さを印象付けずにはおきません。色は与えるものではなく、植物からいただくものであるとも先生は語っておられますが、それを言い換えれば染めるという行為は能動的だが、色は受動的に自然から得るものであるということになるでしょう。
2012年1月