ごあいさつ

 


木村 重信 (染・清流館 館長)

 
 
 「染・清流展」はパネル形式の染織作品を展示しますが、そのことから絵画とどう違うのかという疑問がうまれます。
 近代染色の先駆者は小合友之助さんと稲垣稔次郎さんですが、二人は京都市立美術大学工芸科染色図案専攻を担当、教授されました(染織専攻に変わったのは1964年)。この「図案」はたいへん示唆的です。辞書によると、図案とは「美術工芸品などをつくるときに、色の配色や模様などを考えて図上に表現したもの」とあります。すなわち、対象そのものではなく、その対象をいかにあらわすかということ、換言すれば「なにを」あらわすかではなく、「いかに」あらわすかが問題であるということ。ここに染色を含む工芸の特色があります。というのは、絵画は対象の本質を究めるというシュジェ意識が濃いのに対して、染色などの工芸は色と形の配置というフォルムがシュジェに優先するからであります。そしてこのような考えがさらに徹底されますと、表現対象という中間項がまったく除かれて、形式は抽象的になります。かくてフォルムそれ自体の自己展開という「純粋」造形を示す作品があらわれます。
 以上のようなシュジェとフォルムの関係には、そのどちからかに傾くかによって無数の段階、つまり様式が成立します。そのことを如実に示すのが本展であり、観賞者の視覚をときには鋭く、ときには優しく刺激して、豊潤な美の世界へ誘います
 
 

 ごあいさつ

 


小澤 淳二 (大松株式会社会長

 
 
 第1回「染・清流展」図録(1991年2月)に、私は次のように書きました。
 「わが国が世界に誇ることのできる芸術は種々ありますが、とくに染色芸術は、京都を中心に発達し、世界に冠たる『染色のまち・京都』が形成されました。その染色芸術のより一層の発展をはかるため、今回その第一回展を開く運びとなりました。(中略)この展覧会に出展された作品の多くは、やがて設立される予定の『染色美術館』に収集保存されることになっています。(中略)私はこの企画を、一企業の単なる事業としてではなく、長期にわたる社会的な文化事業と位置づけており、京都染色界の更なる発展の礎石にしたいと考えています」。
 それ以来約20年、「染・清流展」は多くの人たちに支えられて、順調に進展してきました。その最大の要因は、現代的な美を求めて意欲的な活動を続けておられる作家諸氏が、年齢や所属をこえて、毎回、新鮮かつ独自な作品を出展して下さったことです。しかしその中にはすでに鬼籍に入られた方もおられます。ここに、これらの作家諸氏に深く感謝と哀悼の意を表します。
 「染・清流展」20周年をむかえるにあたり、あらためて「初心忘る可からず」の思いを強くしています。今後も、これまで同様、皆様の御支援と御忠告を得て、うるわしい共同のもと、本展の更なる発展を期したいと思います。