染・清流展の面白さ
このところ現代美術の世界で、工芸の技法や素材を生かした表現をよくみかけるようになった。刺繍の技法を絵画のドローイングのように用いたり、立体表現に陶の質感を持ち込んだり、あるいは絵画に染色の技法を生かしたりと、特に若い作家の作品に、必要に応じて旧来の美術と工芸の境界を自由に往還しながら、創作へとつなげているケースがみられる。一方、工芸の側も、八木一夫のオブジェ焼きや高木敏子のファイバーワークなどに代表されるように、素材や技法に根ざしつつ用途を超えた純粋表現の試みが早くからなされてきたことは周知のことだろう。工芸と美術の境界は、根ざすところは違っても、ますますあいまいになりつつある。
染織の本場・京都で開催されてきた「染・清流展」は、染色の素材や技法を用いた表現の今を概観できる有り難い場だ。全般に工芸系の作家が多いのはもちろんだが、面白いのは、現代美術の世界で評価されてきた作家も少なからず含まれている点である。過去の若手出品者でいえば、平面作品の現代美術コンクール「VOCA展」で最高賞を受賞した油画出身の横内賢太郎がそうだし、ユニークな表現を続ける西山裕希子らも、そうした作家の一人だろう。こうした工芸系、現代美術系を問わず、最前線の作家たちが「染め」という1点で集まり、混ざり合う姿は、通常の公募団体展などではあまりみられない光景であり、この展覧会のユニークなところといってよい。
染・清流展は、京都の繊維商社・大松株式会社の小澤淳二社長の提案で始まった。その出発点にあったのは、出品作から優れた作品を収集し、いずれ京都に染色専門の美術館を作りたいという思いだった。まず活動の母体となる清流会を結成し、今は亡き佐野猛夫、伊砂利彦、皆川泰蔵ら30作家の新作を集めて京都市美術館で第1回展を開いたのは1991年。以来、第15回展まで毎年、同美術館で開催し、2006年に念願の染色美術館「染・清流館」を開館して以降は、同館で隔年開催してきた。作品は平面のパネル形式を基本にしてきたが、間口は広く、過去にはファーバーアートのような立体表現や純然たる着物が出たこともある。こうした作品形式のゆるやかさもこの展覧会の特色の一つといえるかもしれない。
スタートから今年でちょうど20年。これまでに清流会が収集した作品は同展の出品作を中心に約550点にのぼるという。発表の場を提供し、優れた作品を収集するという同会の活動が、染色にかかわる作家たちの励みになり、創作を大いに刺激してきたことは想像に難くない。そもそも染色にしぼった選抜展を定期的に開いたり、染色専門の美術館を作ったりすることは、京都の地場産業育成の観点から行政が担ってもおかしくない活動である。それを一民間人の手で始め、長年に渡って継続してきた努力は、高く評価されるべきだろう。
今年の第18回展には前後期合わせて約50人が出品する。うち10人が初出品で、京都以外の作家も含まれるという。そこにどんな新鮮な表現が出てくるか、今から楽しみである。染色の長い歴史と肥沃な土壌をもつ京都で、現代の工芸と美術が「染め」という土俵で交わり、激しくスパークする。そんな創造的でスリリングな場であり続けてほしいと願う。