現代を生きる「染・清流展」


河村 亮 (京都新聞社編集局文化報道部)

 京都の地には世界随一の染めの技と人が集積されてきた。山紫水明の題材、美しい水と文化に恵まれ、それは今も続いている。その染色のまちで開かれる「染・清流展」は、染色の地層と動向の断面が見える。古来の技を受け継ぐ伝統、それらを基礎として近代に開花した造形表現、ファイバーアート風の立体性、アニメやサブカルの影響を受けた現代的表現、現代美術と工芸の間を行き交う創作など、多様な流れと動向が入り交じり、交錯する。そうした匂いや予兆が、「染・清流展」の出品作からは感じ取れる。
 染色の都から、日本の染色アートを世界へ発信しようと試みたのが、1991年に京都市美術館で始まった「染・清流展」だった。京都の繊維商社・大松株式会社の小澤淳二社長が呼びかけ、優れた染色作品を買い取り、収集し、染色の美術館構想の実現を目指した。第1回展は、今は鬼籍に入った大家から、現在も活躍するそうそうたる面々が参加し、京都染色界の層の厚さを示した。その後も日本を代表する染色作家たちが毎回名を連ねて15回展まで、意欲作を出品した。
 そうした中、2006年、世界で唯一の染色専門の美術館「染・清流館」が染色のまちの中心部に誕生する。翌年の16回展からは隔年開催で、この「染・清流館」が舞台となった。美術や創作としての染色の歴史は浅いが、この展覧会を通じて多彩な染色のありようを見せるとともに、作家の底上げにも貢献してきたといえよう。

 今年の「染・清流展」も新鋭から中堅、重鎮まで幅広く、一線で活躍する作家がそろっている。ベテランの黒田暢や渋谷和子をはじめ、今春京都美術文化賞を受賞した麻田脩二、NHK大河ドラマ「八重の桜」のタイトルバックにも採用された「ハンサムウーマン」小野山和代ら旬の作家たちが参加する。伝統から最先端まで枠を超えて、力のこもった大作が会場を彩りそうだ。
 今回で19回目を迎える「染・清流展」。展覧会の積み重ねもまた歴史になろうとしている。パソコンや機械を駆使すればなんでもできる時代だからこそ、水や空気、温度など自然を相手にする創造の仕事は貴重になる。計算できない、予想できない、手の仕事の魅力。染色の色彩の際限ないグラデーションのように、アートと工芸の間に広がる無限の可能性を感じたい。