閑かさや岩にしみ入蝉の声
松尾芭蕉

越川 一香
「おくの細道」の旅で山寺立石寺に立ち、芭蕉は鳴きしきる蝉の声のかなたに広がる広大で閑かな宇宙に気づいたという。
ロマンを感じさせる。
規定サイズを最大限に活かし、スケールの大きい作をねらった。宇宙の閑けさ(静)と蝉しぐれ(動)の対照的音の世界を運筆の緩急と画数の多少で表現しようと考えた。
しかし、全体感の表現には至らなかった。
60×57.5cm

福本 繁樹
この句は、「しみる」という感覚こそ日本の詩歌で重んじられる感覚であり、日本人にとって「奥」と「心」は同義であること、奥と染めが相互滲透によってその意味をふかめあっていることを示唆してくれた。それがわたしをして数年がかりで拙著『「染め」の文化』を書かせる機縁になり、染めの制作をつづける励みともなった。
閑かさと騒がしさ、悠久(岩)と刹那(蝉の声)、浸透と発露といった、「日本という方法」とされている二項同体をふまえ、蠟染めと「なるほど染め」によって芭蕉の幽玄をめざした。
綿布、反応性染料/
蠟染め、なるほど染め
126×126×5cm