しぐるゝや鼠のわたる琴の上


与謝蕪村
鳥飼 玉翠

 

鳥飼 玉翠

 

 

 外はしぐれて冷えきった薄暗い座敷に弾きかけの琴がポツンと置かれ、その上を鼠が走りわたる姿を想像した。琴の上を鼠がわたって音をたてる様子を細くはずむ線で、また、細い玄の上で踏みはずそうとする時の格好をまるい文字形で表現。鼠の色や琴の玄の雰囲気がでるかとまん中に青墨で横線を入れて試みた。


60×60cm

澁谷 和子

 

澁谷 和子

 

 

 寒々とした八畳の間を、又しても占拠していた二面の琴。そして三味線、鼓─。私の中で化石していた時代の吾家の風景が突然蘇って来ました。稽古事の全てを蹴散らして─。以来、能も、芝居も、文楽も、避けて通った私の越し方。少女期の抵抗でした。神棚、仏壇を荒す鼠にも四苦八苦させられたあの頃に、のどかな折角もあった様な─。ふとそんな想いに誘われるまま、選んでいた一句でしたが、俳人方にしかられそうな結末です。


綿/型染
128×50cm