春雨や小磯の小貝ぬるゝほど
与謝蕪村

野村 祟
最初に句をみた時、直感で静かな柔らかいイメージを持ちました。制作終盤の晩秋から春先にかけて私が暮らしている日本海側の空や海はどんよりとした鉛色。時間の経過とともにそんな色や空気を感じるようになりました。
制作にあたり、柔らかな表情を願い胎毛筆を用い、墨色をやや緩め、全てひらがなとしました。
60×60cm

加賀城 健
「染色は制約が多くてむずかしい」というフレーズをよくきくが、私自身は制約のない自由など、取っ掛かりがなくおそろしい。俳句も同様に、制約をふまえて成り立つ面白い世界だと思う。今回選んだ蕪村の句は、ふまれた頭韻のリズムが心地よく、雨粒がやさしく貝殻に降り落ちる様を、映像として浮かびあがらせる。絵師でもあったのですね。制約のなかに永遠の景色を立ちあげる、繊細で静かな凄みを私は感じた。あやかりたい。
レーヨンサテン、綿ブロード、染料/染色
162×97cm