ごあいさつ


加藤 類子 (染・清流館館長)

 随分古い話だが、京都国立近代美術館に在職していた時代ことである。オランダから来たキュレーターが素朴な口調で、「フランスでは、リヨンに染織作品を収集した歴史博物館があるのに、ロンドンにはヴィクトリア・アンド・アルバート美術館という立派な美術館があるのに、日本では、ひとつも染織美術館がないことが、かねがね不思議と思っている。京都は染織の中心地なのに、どうして美術館がないのでしょうか」と、質問した。なるほど、そうだと思った。「しかし、現在進行形の産業ですから…」と、しどろもどろに返事をしたことは憶えている。以来、私の脳髄の中で、「染織美術館を持たない」ことが絶えず念頭を離れなくなった。
 おりしも、「染・清流館」設立の話が持ち上がった。「染」中心の館になるらしい、と、噂された。織が含まれないことを残念に思ったが、室町に位置する館でもあるので、オーナーの意志を重んじられるのだろうと想像した。従事する人口から言っても、学ぶ学生の数から言っても、寄せられる関心の高さを考えても、染イコール京都と言って過言ではない現実がある。そのなかで真実を目の当たりにした染・清流館の存在価値も、年を追って増してきているのではないだろうか。
 伝統の絞染、辻が花をはじめ、友禅染の職人の方々、偉大な先輩、第一線および若手の研究者等々に敬意を表します。そして出品作家から寄せられた力作の数々により、「染・清流展ビエンナーレ」がますます新しい感覚と知性を表し、さらなる飛躍を遂げますように祈念しています。

ごあいさつ


小澤 淳二 (清流会 会長)

 「染・清流展」は今年で22回を数えます。1990年に第一線で活躍しておられる染色家の諸先生方とともに清流会を結成し、翌年2月に京都市美術館で開催した第1回染・清流展には30名の作家にご出品いただきました。
 その第1回展の図録に、のちに染・清流館の初代館長に就いていただいた木村重信先生と、京都の染色界の長老的存在だった佐野猛夫先生が文章を寄せています。木村先生は「願わくば、芸術を好み、染色を愛する人たちが、一人でも多く会場に足を運ばれ、その美に接することを通じて、染色芸術の発展に参与されんことを」とその文章を結ばれ、また佐野先生は文中で「京都の染色文化の新たな躍進をめざす」と力強く宣言しておられます。
 それから四半世紀あまりが過ぎ、佐野先生に続いて木村先生も他界されました。他方で今年の「染・清流展」には、第1回展の開催時には生まれていなかった新進作家の作品も展示します。今年の「染・清流展」も、作家のかたがたから寄せられた優れた作品によって、先達から託された「染色芸術の発展と躍進」というバトンをしっかりと受け継ぐものであると確信しています。